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目が覚めて最初に視界に映ったのは見慣れない部屋の天井だった。

一瞬で酒を飲んだ時の事を思い出し、一気に飛び起きようとした。

けれどそれが出来ない事に気が付いたのは、飛び起きようとした反動で身体が勢いよくベッドに
引き戻されたからだ。

「!!?」

足首と手首が痛い。

見ればベッドに括り付けられていた。

幸い服は着ていたが、だからって安心なんて出来るはずがない。

「起きましたか?」

「江藤・・・・・てめぇ・・・・・」

こんな状態にしたのは目の前にいるこいつしかいない。

そんな相手に敬語なんて使えるもんか。

「いいですねぇ、その顔」

江藤はそう言って薄く笑みを浮かべる。その表情に心底腹がたつ。

「お前、酒になんかしこんだな?
こんな事して何になるって言うんだよ!!はやくこれを解け!」

「店で俺の言った事を忘れましたか?」

“貴方を犯したい。SEXだけじゃない。心も身体も、支配して奪い尽くしたいんです。
あなたのよがっている顔、涙、全部綺麗なんだろうな。”

そう言われた事を思い出し、顔が一気に熱くなるのを感じた。

「っ!!」

「思い出してもらえましたか?」

「な、なんで俺なんだ!あんたに言い寄って来る人間なんて沢山いるだろ!!」

現に会社を出る時に女性秘書に言い寄られていたじゃないか。

「香島さん、俺はね、選ばれる事には慣れてるんです。
だから、今まで自分から欲しいなんて思った事はなかった。
貴方が初めてなんです。
貴方は俺に対して媚びることもへつらう事もしない。微笑む事もしない。
貴方はいつも俺に対して無だった。
だけど俺のいない所では表情がくるくる変わって・・・笑ったり怒ったり困ったりしてた。
その表情を全部自分のものにしたい。
そう思った時あなたに対する自分の感情に気が付きました。」

選ばれる事には慣れているなんて、他の人間が言えばただの思い上がりだと
一蹴出来るのに、江藤に関しては真実なのでそれが出来ない。

でも、表情まで自分のものにしたいだなんて・・・

「そんなの、おかしい」

「だから言ったでしょう?こんな感情を抱くなんておかしいって。
貴方が欲しいんですよ。全部ね。」

「俺は、あんたに劣等感を持ってただけだ。
金も地位も見た目も性格良くて仕事も出来て、自信と余裕も何もかも持ってるあんたを
勝手に妬んでたんだ。だから媚びたり笑顔を見せたり出来なかった。
こんな陰湿な男のどこがいいって言うんだ。」

ほら、こんな男なんだよ俺は。

さっさと幻滅でもなんでもして諦めてくれればいい。

「大概の人間はね、貴方の言う劣等感を感じる部分に媚びを売るものなんですよ。
自分より優れたものを利用出来ればそれに越したことはないから。」

金や地位・・・もちろんそういう類の人間も中にはいるだろうけど、

決して世の中の人間全てがそうなわけではないだろ。

「そんな人間ばっかじゃねぇよ」

「生憎、俺の周りにはそういう人間しかいませんでした。
今だってそんな人間しか俺の周りにはいません。貴方以外は。」

一体どんな環境で生きて来たのだ。

いや、どんな環境で生きて来たって、俺にこんな事をしていい理由にはならない。

「これは犯罪だぞ・・・」

「そうですね、ここで貴方を解放してもしなくても、犯罪にはなるでしょうね。
だったら・・・」

江藤の手が俺の首元に伸びてくる。

まさか首を絞められるなんて事は・・・!!と思ったがネクタイを外されただけだった。

ほっと息を吐いたのが江藤にも分かったらしい。

「安心するのは早いですよ。俺、貴方を犯したいって言いましたよね。」

そう言って江藤はシャツのボタンを外していく。

「や、やめろ!今なら忘れてやるから、なかった事にして誰にも言わないから!」

「なかった事にされるのが一番嫌なんですよ。
どんな感情でもいい、貴方に俺を強く刻みつけたいんです。」

そう言って江藤の顔が近づいてくる。

ボタンを外したシャツの前をはだけさせ、首元に唇が寄せられる。

そのまま何度も首や鎖骨に唇が落とされ、ついには胸の突起を舌で舐め上げられた。

「っ!や、やめろ・・・」

情けないが身体が震える。

この、目の前にいる男が恐い。

江藤は胸の突起を口に含みながら俺の目から視線を逸らさない。

見せつけるように、ねっとりと何度も舐めあげられ、神経の全てが江藤の行動に集中していく。

口に含まれながら歯を立てられ、一瞬電気のような感覚が走った。

「っぁ!」

なぜ・・・・??こんなに恐ろしいのに、なぜ俺は・・・

「痛いばかりでは嫌でしょう?気を失ってる間に、少し細工をさせてもらいました」

「な・・・にを・・・」

「媚薬というんですかね。ただ、気持ちが良くなるだけですよ。
安心してください。」

安心など出来るはずがない。

俺は高まる恐怖と不安に押しつぶされそうになっていた。





 
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