3 「お前が、あんな風に言ってくれるとは思わなかった。」 お披露目も終わり、俺たちは今奥に下がって、二人でくつろいでいる。 「自分だけが安全なのは嫌だとか、力を貸してほしいって言った事?」 「ああ」 「だって本当の事だよ。俺に国をどうこうできる力なんてあるわけないし、 それにこの国の事を一番知らないのは俺だし。 俺から見たらみんな先輩だもん。」 そう言ったら、シャナが俺を引きよせて強く抱きしめた。 「お前と同じ方向を見て歩いて行ける事が、私は何よりうれしいよ。」 シャナはそのまま俺の首筋に軽いキスを一つ落とした。 そのまま唇が俺鎖骨に落ちて来た・・・ちょうどその時・・・ 「お待ちください!ここより先は王の寝室でございます! 許可なく立ち入る事は許されません!」 扉の向こうでユリが珍しく声を荒げていた。 何事かと思いシャナと顔を見合わせた後、扉の方に歩いていく。 扉の向こうには美しいエメラルド色の髪と瞳を持った女性が 凄い勢いで歩いてくるのが見えた。 後ろにはかなり慌てた様子のユリも見える。 ユリのお腹には赤ちゃんがいるのに・・・ あんなに焦って転びでもしたらどうするんだ! そう思ったら自然に身体がユリの方に向かっていた。 「ユリ!そんなに慌てないで!」 そう言ってユリに近づこうとした瞬間、強い力で腕を掴んで引っ張られた。 何事かと思い振り返ると、エメラルドの女性に腕を掴まれていた。 伸びた爪が腕に突き刺さって痛い・・・。 「こんなどこの馬の骨とも分からないような者がなぜ王の妃になれますの? 家柄だって容姿だって何だって、私より勝っている所があるとは到底思えませんわ!」 「・・・ジェナス姫、正式な通達が君の御父上の所に届いているはずだが。」 「ええ、ですから分かるように直接説明して頂きたくて参りましたの。 あんな紙切れ一枚で私の今までの努力を無駄にされたのではたまりませんわ!! 私は、王のためだけに生きて来たのです!」 なんの話かなんとなく予想がついてしまった。 このお姫様はシャナのお嫁さんになりたいんだ・・・ だから、俺が気に入らないんだな。 「そもそも、私が貴女を妃にしたいと申した事は一度もない。 貴女と貴女の御父上が強引に話を進めようをしていたのではないか。 それよりも、貴女が掴んでいる彼の腕を離しなさい。」 「何故です!こんな者の何処がいいと仰るの!!」 そう言ったお姫様は余計に俺の腕を締め付ける。 あまりに爪が食い込むので、流石に顔をゆがめてしまった。 「姫、あまり私を怒らせない方がいい・・・ 嘆願書の返却とともに、新たに罪状が加わる事になる。」 「あ、あんまりですわ! 結婚もして下さらないのに、私を罪人として扱おうとなさるなんて!」 そういうと勢い良く手を離された。 その反動で身体が大きくよろめいてしまった。 「希様!」 よろめいて手をついてしまった俺の元にユリが近づいてくる。 「お怪我はございませんか!?」 「うん、大丈夫。それよりユリこそ走ったりしたら危ないじゃないか。 ユリのお腹には大切な命が宿ってるんだから。俺、本当に無事に産まれて欲しいんだ。」 「希様・・・ありがとうございます・・・」 ユリが俺の手をとり立ち上がっている間にも、 彼女はシャナに向かって俺の文句を言っているようだった。 この場合、俺はきっと口を出さない方がいいんだろうな。 サラリーマンの時もそうだった。 こういうタイプの女の人が怒っている時に口を挟むとロクな事がなかった。 それに、シャナにこれだけ物を言えるのはそれ相応身分のお姫様なのだろう・・・ 俺が文句を言われている分にはいい。 俺が我慢すれば済む事だ。 「とにかく、私は貴女を妻に迎える事など今までもこれからも考えていない。 失礼させてもらうよ。」 シャナは話を切り上げ、俺の肩を抱いてユリを下がらせてから、部屋に戻った。 正直、全く誰からも反対されないなんて事はないと思っていた。 言ってみれば俺はよそ者だし、 シャナの事を想っている人間が他に居たっておかしな事ではない。 というかむしろ、居て当たり前なのだ。 王である以前に、シャナは魅力的な一人の男性なんだから。 これくらいの事、今だけじゃなくて、これからだって何度も起こるかもしれない。 そうしていつか、俺よりも・・・ そこまで考えて胸がチリッと痛んだ気がした。 「・・・・・」 俺はその一瞬何だか自分がとても浅はかな人間のような気がした。 俺は物分かりのいいふりをしているだけだ。 じゃなきゃ、こんな風に、胸が痛んだりするはずがない。 「希?」 「あ、ううん、何でもない・・・それより、良かったの?」 「ああ、以前から彼女の父親は私に彼女との結婚をすすめてきていてね、 彼女は彼女で私の妃になるのだと教え込まれて育って来ているから、 今回みたいな事を言い出したんだろう」 「そっか、じゃあ、彼女にとって、俺は邪魔なはずだね。納得した。」 シャナは無言で俺を見つめてくる。 「な、なに?」 「納得したにしては、随分な顔をしているが。」 「そ、そんな事ないよ・・・」 目が合わせられなかった。 「希・・・もう約束を忘れたか?お前が頼るべき男は私一人だと 約束したはずだが?」 確かにそう約束したけど、自分の浅はかなこの気持ちをシャナはどう思うだろうか。 既に王の隣に立つ素質が自分にはないのではないだろうか? 「あの・・・俺・・・」 「ん?」 シャナは急かしたりせずに俺の言葉を待っていてくれている。 「勝手に色々想像して・・・」 そうだ、この気持ちは この胸を突き刺すように燃えているこの感情は、まぎれもなく 「嫉妬・・・したんだ。」 嫉妬だった。 「シャナは素晴らしい人だから、色んな人がシャナに好意を持っていて 当たり前なのに、俺、もしかしたらいつか俺なんかよりも素敵な人にシャナをとられて しまうんじゃないかって思って・・・ そうしたら、なんだか胸が苦しくて。誰にも渡したくないなんて、そんな事まで 思っちゃって・・・ 馬鹿だよね、勝手に想像した居もしない相手に嫉妬するなんて。」 口に出すと、余計に情けなくなった。 俯いてしまった俺をシャナが優しく抱きよせる。 「・・・希」 聞こえてくるシャナの声は優しいままだ。 「希、私が今どんな気持ちでいるか分かるか?」 どんな気持ちかって聞かれても分からない。 声の雰囲気からは呆れているわけでも怒っているわけでもなさそうだけど。 考えていると、ゆっくり身体が離され、唇に優しくキスを落とされた。 「嫉妬するほど、私を愛しているのだな?」 改めて言われると恥ずかしいけれどその通りなので素直に頷いた。 「嫉妬されて、こんなに嬉しい気分になったのは初めてだ。 お前はいつも私の前では穏やかでそよ風のようだ。 そうであろうと努めてくれている事も理解はしているが、 それでも私は、時に寂しい気持ちになる事がある。 こんな風に、色んな希をもっと見せて欲しい。これから夫婦になるのだ、 何一つ余すことなく私は希の全てを知りたいし、その全てを愛す自信がある。」 「シャナ・・・」 シャナをそんな寂しい気持ちにさせていたなんて。 思えばユリにばかり相談をしていた事も シャナにとっては寂しい事だったんだろう。 嫉妬する俺も、愛してくれるんだね。 そう思うと、堪らなく愛しい気持ちがこみ上げて来て、 この人を今思い切り抱きしめたいと思った。 抱きしめられるばかりじゃなく、俺も抱きしめてあげたい。 「ねぇ、俺がシャナを抱きしめてもいい?」 そう言うと、 シャナは俺の手を握ったままゆっくりとベッドの端に腰かけた。 抱きしめやすいように座ってくれたんだ。 腰かけたシャナの足の間に立ち、シャナの頭ごと抱え込むように抱きしめる。 「シャナ?俺がこの世界に来た時に夢で聞いたって言葉を覚えてる? これからは何があっても守ってやれる・・・って。あの言葉」 「ああ、覚えているよ。」 頭を抱えられながらしゃべっているシャナの息が胸にかかる。 「今度は俺がシャナに同じ事を言いたい気分なんだ。 シャナを守りたい。なにがあっても。そのためには俺何でもするよ。 シャナは俺の事そよ風みたいなんて言うけど、 俺、シャナを守るためならきっと嵐にだってなるよ。」 そう言ってシャナを抱きしめる力を緩めると、今度は俺からキスをした。 「希・・・・・」 シャナの指が俺の腰のラインを優しくなぞる。 「お前を、今すぐに抱きたい」 「うん。」 俺も同じ気持ちだった。二人でゆっくりベッドに横たわり、服を脱がされていく。 その間何度も口付けを交わし、それが次第に深くなっていった。 俺が自らシャナの勃ち上がったソレに触れると、シャナは少し驚いたようだったが くしゃりと頭を撫でてくれた。 いつも与えられてばかりだったから たまには返したかった。上手くできるかは分からないけど、少しでも 俺の気持ちが伝わってくれたらいい。 ← → novel index top |