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その日の夜、俺は早速シャナに城外へ連れて行って貰えるように
お願いした。自分が栄華なんだと信じる事が出来るかもしれないと
思ったし、この国がどんなものなのか、純粋な興味もあった。
それにシャナと出かけたかった・・・
 
なんていうか、旅行とか、遠出すると、
その人の普段と違う一面が見られる事ってあると思うんだ。
 
「ね、お願いです。外の様子を見てみたいんです。」
 
「しかしな、希・・・お前を城外に連れ出す事は危険なんだ。」
 
眉間に皺を寄せて、腕を組んで考えている。
シャナはかなり渋っているようだ。
 
「ユリが、城外に出れば自分が栄華だと納得出来るって
言ったんです!俺、自分が本当にそんなに大層なものなのか
全然分からなくて・・・でも、本当に「栄華」だとしたら、そう
納得出来たら、この国の為に何か出来る事が見つかるかもしれない!」
 
そう、俺だって男だ!何もしないでいいなんて言われたって
嬉しくない!
というか、何かしたくてしょうがないんだ。
このままずっとこの部屋でだらけていては身体が鈍ってしまう。
 
「お願いです・・・「栄華」の事もあるけど、本当はそれよりも
シャナと出かけてみたいんです。
会うのはいつもこの部屋だから、違う場所で、違う貴方を
見てみたいんです」
 
「希・・・」
 
俺の名前を口に出しながらため息をつかれてしまった・・・
やっぱり無理なんだろうか・・・
 
「そんな風に言われて、お前のお願いをきけない人間がいたら
是非とも会ってみたいよ」
 
「え・・・それじゃあ!!」
 
「ああ、いいだろう。ただし、ユリからも聞いていると思うが、
最低10人の護衛を連れていく。
それと、私のお願いも聞いてくれるか?」
 
「はい・・・俺に出来る事なら・・・」
 
「大丈夫、希にしか出来ない事だ・・・」
 
そう言って微笑んだシャナの顔がどんどん近づいてきて、
彼の唇が俺の唇に重なる。
 
「っ・・・お願いって・・・これですか?」
 
「ん?これだけじゃないよ。」
 
シャナはそう言って、悪戯っぽく微笑み、俺の腰を引き寄せる。
この笑顔を俺は知っている・・・この、布越しに伝わる腕の熱さも・・・
 
「希を抱きたい・・・いいか?」
 
そう言いながらまたキスをしてくる。
その腕の熱も、どんどん上昇していく気さえする。
 
「っ・・・ずるい・・・」
 
「ん?」
 
「そんな風にキスされて、熱い腕で触れられて、拒めるわけないのに。」
 
「そうか?最初、この国に来た時は随分拒んでいたじゃないか」
 
「それは!だって・・・男同士って抵抗があったし
・・・それに好きでもないのにって思ってたし・・・
でも今は違う!今は、ちゃんと、その・・・好きだし・・・」
 
そこまで言ったところで、俺の言葉はシャナの深い口付けによって
遮られてしまった。許されるのは、どんなに我慢しても漏れてしまう、
鼻にかかった甘ったるい声だけ。
 
「希が私に好きだと言ったのは初めてだな・・・」
 
ようやく開放された時に仰ぎ見た、彼の嬉しそうな顔を
俺は忘れる事はないだろう・・・





約束の日は、思っていたよりも早く訪れた。
俺が外に行きたいとシャナに告げてから、2日後の事だった。
 
「ねぇ、ユリも一緒に行くんだろう?」
 
手際よく朝食を用意してくれているユリに話しかけ、
それに答えるようにユリはにっこりと笑って頷く。
 
「ええ、私も護衛の一人として参ります。
これでも昔から結構鍛えているんですよ」
 
そう言ってユリは自分の胸を軽く叩く。
鍛えてるって・・・どんな鍛え方をしているのだろう。
もし、俺にも出来そうな事なら是非教えて欲しいと思った。
 
「鍛えるって、一体何をして鍛えるの?
俺にも出来そうな事なら、俺もやってみたい。」
 
「剣術の稽古ですが・・・うーん・・・私は教えて差し上げても
いいのですが、それを王がお許しになるかは・・・」
 
そう言って首を傾げる。
しかし、俺は剣術と聞いてもう既にやる気満々になってしまった。
何故なら、俺は中学高校と、剣道部だったからだ。
小学校の時から興味があって、近くの道場を覗きに行ったりしていた。
ウチには習い事をやる余裕なんてなかったし、だから中学に
入った時は、真っ先に剣道部に入部届けを出していた。
 
「あ、俺さ、剣道やってたんだ!だから全然初めてって
訳でもないし!」
 
「ケンドウ??希様の世界には、
そういった名前の剣術があるのですか?」
 
ユリは興味津々という顔で俺に聞き返してくる。
剣の道に興味があるなんて、やっぱり男なんだな、と
感心してしまった。
 
「もし王がお許しになったら、この世界の剣術を教える
代わりに、私にもそのケンドウを教えて下さいね。」
 
「うん、約束!」
 
俺はシャナと出かける事と、いつか剣術の稽古をしてもらえる
という事にウキウキしながら、いつもより多めに朝食
を摂った。
 
 
 
それからしばらくして、シャナが迎えに来てくれた。
 
「さぁ、行こうか・・・希」
 
俺の手に優しく触れて、軽く引っ張るように歩きはじめる。
そのシャナの格好は外出用なのだろうか、マントらしい
長い布を肩から下げ、それが風でなびいている。
いつもよりもっと凛とした雰囲気をしていた。まさに高貴な人って感じ。
女の子なら黄色い声を上げているに違いない。
 
シャナの後方には馬らしき動物が10頭程と、護衛らしき人間が
これまた10人程いた。
 
その護衛らしき人達の先頭に、赤みがかった茶色の髪をした人がいた。
ゆるくウエーブのかかった髪は風になびき、シャナとは違った
美しさを持った人だった。
 
その人の視線は、俺を見ているようで、違っている。
俺の後ろを見ているのだ。
俺の後ろにいるのはユリしかいなくて、俺は、なぁんだ・・・
と一人納得していた。
でもまぁ、ユリが紹介してくれるって言ったから、いつかは
その真実を知ることができるだろう。
 
それでも他の人達の視線は自分に向いているようで、
酷く緊張してしまう。その様子を見ていたシャナは、
俺の事を凝視している人達にむけて言葉を放った。
 
「希ばかり見ていないでさっさと準備をしろ。」
 
そう言った後、シャナは俺にしか聞こえないような声で、
「あんな惚けた顔で希を見つめるとは・・・
希は私のものだという事を、早く国中に広めねばならないな」
なんて言った。
 
「シャナ、ほ、惚けた顔だなんて!きっと俺が珍しいだけだよ・・・
く、国中に広めるなんて、そんな・・・」
 
「なんだ、そんなに赤くなるなんて、恥ずかしいのか?」
 
楽しそうに聞いてくるシャナに、俺は無言で頷く。
 
「そうか、ならば国だけでなく世界中に広めなければな。
私は希の恥ずかしがる顔が好きなんだよ。」
 
その後で、「ベットの中の希なら、どんな希でも好きだけれどね」

なんて囁かれて、俺は真っ赤になって俯いてしまった。 





 
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