7



次の日目が覚めると、またしても昼近くになっていた。
 
ただ前と違うのは、シャナが隣に居る事だった。
仕事はいいのだろうか・・・
 
何を言うわけでもなく、じっと俺の顔を見つめている。
その顔はとても穏やかで、とても昨日、俺にあんな恥ずかしい事を
してきた人だと思うことが出来なかった。
どのくらいそうしていたのか、俺は見詰め合っている事に気付き、
ハッとして顔を背けた。
 
「どうした?もっと顔を見せてくれないか」

そう言って俺の髪を、その長い指で梳いてくる。
 
「な、何言ってるんですか!そんな、恥ずかしい!!」

「昨夜はもっと恥ずかしい事をしたと思うが?」
 
こ、この言い方だ!
とても恥ずかしい事を言っているのに、
こうして淡々と言われてしまうと、
自分が恥ずかしがっている事の方が
おかしいのではないかと思えてくる。
 
「どうした?私がこうして隣にいるのに、
そっぽを向かれては寂しいだろう?」

「そ、そんな事を言われたって・・・恥ずかしい!」

「希は本当に、可愛いな」
 
そう言って首筋に唇を寄せてくる。
 
このむず痒い雰囲気を打ち破るように、扉がノックされる。

「王、そこにいらっしゃいますか?」
 
聞いた事のない男性の声が扉の向こうから聞こえてきた。
シャナの穏やかで低い声とはまた違う、少し威圧感のある声。

「ハウエルか・・・」
 
「はい!どうしても王に
お会いしたいと言う隣国の使者が参っております」

「そうか・・・・・」

一瞬、何か考え込むような顔をしたシャナが、ベットから抜け出す。
隣の熱が、一瞬にして冷えた気がした。
 
そして、ベットがこんなに広かっただろうかと感じた。
もちろん、今までだって充分に広いと感じていたはずなのだが・・・
 
「希、すまないが、少し出なければならない。」

「はい、お仕事ですね」

「ああ・・・本当は、
今日は一日中お前を離さないでおこうと思ったんだがな」

その言葉にまたしても恥ずかしくなる。
 
「な!!は・・・早く行って来て下さい!」

「フッ・・・私の愛しい人は冷たいのだな。
そうだ、今日は一緒に夕食をとろう」

思えば夕食はおろか、
ご飯を一緒に食べた事など今までに一度もなかった。
(まぁ、死にかけていたのだから当たり前と言えばそれまでだが)
 
その申し出はとても嬉しかったので、素直に頷いた。

「待ってます」

俺の言葉に満足したように、
シャナはにっこりと微笑んで、身をひるがえした。
 
「ハウエル!まだそこにいるか!?」

「はい、ここに」

「その者を謁見の間に通せ!身支度を整えたのち、直ぐに参る!」
 
良く通った、普段とは違う威厳のある声を残して
シャナは部屋を出て行った。





思っていたより早かった・・・
決して予測していなかった訳ではなかったが。
 
今までにも何度か、希のように異世界からやって来る者がいた。
 
異世界の人間がやってくるとその国は栄える。
そんな噂が広まったのは一体何百・・・
いや、何千年前なのだろう・・・
実際過去の文献を見ると、
異世界から来た者がいた我が国の時代は栄えている。
 
(故に、異世界から来た者の存在をこの世界では「栄華」と呼ぶ。)
 
その事を知った他国が、
己の私利私欲の為に「栄華」を手に入れようとする。
その最たる国が、今私に謁見を求めて来ている国、「キエト」なのだ。
キエトは王が変わる度にその名が変わる。
王の名が国の名になるのだ。
いかにも独裁的な彼らの受け継ぐ伝統だと思う。
 
 
 
着替えが終わり、謁見の間に向かう。その足は重い。

「ハウエル」

「ここに」
 
扉の前で控えていたハウエルが向き直る。

「お前の最も信頼出来る者を希の警護に当たらせよ」
 
一見温和そうだが、目的のためには手段を選ばず、
いつどんな事を仕掛けてくるか分からない。
物分りが良さそうに振る舞い、
それで安心などしてしまえばそれで終わりだ。
笑顔のまま命をも奪う。
キエトはそういう国なのだ。
油断など出来ない。
 
「残念ながら、王以外で私の一番信頼出来る者は、
既に希様に付きっ切りです」

ハウエルはそういって口角を吊り上げて見せる。
 
「?ああ、そうか、そうだったな・・・ッハハ!
では、二番目に信頼出来る者を警護に当たらせよ」

「御意」
 
「警護に当たらせたらすぐに戻ってこいよ?
余計な事をして遅くなろうものなら例の許可を取り消すぞ」

そう言って嫌味のお返しに口角を吊り上げ返してみせる。
 
「それは御勘弁を・・・急いで参ります」

そう言って駆けて行くハウエルの姿を見ながら、希の事を思い出す。
どんな事があろうと彼を他の国に渡すなど到底考えられない。
その必要もない。
 
希に話したように、彼は私の腕に降りてきたのだ。
彼こそが自分の運命なのだ。
誰が自分の運命を人に渡せるというのか・・・
 
彼が私を選び、私が彼を選んだのだ。
 
こんな風に思うなど自分でも馬鹿らしいと思うが、
本当にそう思うのだから仕方がない。
 
謁見の間の扉の前でいったん立ち止まり、
それから勢い良く扉を開ける。

「キエトの遣いの者だとか・・・
お待たせして申し訳ない。面を上げられよ。」

キエトの遣いのものが顔を上げるのを確認し、用件を聞きだす。
 
「早速だが、用件を伺おう」

「”栄華”様の事についてでございます。そのことのについて、
我が国王が、話し合いの場を・・・との仰せにございます」



 
novel index
top