4 あのあとしばらく抱きしめられてから、どうして交わる相手が王 ではなければならないのか説明を聞いた。 異世界の人間はやはり珍しいらしく、 そして何故か、異世界から人間が来ると、国が栄えるらしい。 その為に山賊や海賊が売り飛ばす目的で攫いに来たり、 他国からも手に入れようとする者が来るらしい。 俺にそんな価値があるとは到底思えないのだが、 過去に何度か前例があったそうだ。 なので、絶対的な権力の元で庇護されなければいけないのだそうだ。 庇護を受ける代わりにずっと王の傍に仕えることになるらしく、 それは要するに王のものにならなければいけないというのだと説明された。 その後、王に「そんな決まりなどなくても私はお前を傍に置きたい」 と言われ、瞬間湯沸かし器のように真っ赤になったのを、 お茶をいれるために戻ってきたユリにクスッと笑われた。 ユリには俺が変な事を言った事に対して謝った。 そうしたら、笑顔で「気にしていません。気が動転していたのでしょう」と言われた。 そうかも知れない。 段々身体の自由が利かなくなっていくのが恐くて、 急いて相手の気持ちを考えられなかった。 見た目が女の子っぽいのを気にしているユリに、 見た目が女の子っぽいから抱かれても耐えられるだろうと考えていた 自分を酷く恥じた。 ユリにはもう将来を誓った相手もいるらしく、またもや驚かされてしまった。 まったく、ユリには驚かされてばかりいる。 どんな人か紹介してよと言ったら、 いつかお会いする機会もあるでしょうからその時に・・・ と言われてしまったので、楽しみが一つ増えたと思う事にした。 その夜・・・ 王が一緒に寝ると言って部屋に入ってきた。 俺は正直焦っていた。 「あの・・・やっぱり・・・するんですか?」 一緒に寝るという事は、普通そういうことなんだろうと思ってしまうのが普通だ。 抱きしめられている間に、俺はこの人に抱かれるんだという覚悟はしていた。 けれど、現実にこうして2人きりになると恥ずかしくて仕方なかった。 「そうだな・・・」 やっぱり!俺は俯いてしまった。 「しかし私は、お前に好かれたい。身体を重ねる時には、愛し合っていたいんだ」 俺はまたもや瞬間湯沸かし器のようになってしまった。 よくもそう恥ずかしい台詞がスラスラと出てくるものだと感心してしまう。 「だから今夜は、一緒に寝てくれるだけでいいんだ。」 そういわれて、それくらいならば・・・と、コクンと頷いた。 「ありがとう・・・」 そう微笑んだ顔が本当に嬉しそうで、思わずその笑顔に胸がときめいてしまった。 ベットに入ると、すぐに後ろから抱きしめられた。 驚いたが、嫌ではなかった。 王からはとてもいい香りがして、俺はより緊張してしまう。 俺はその夜、緊張してなかなか寝られなかった。 王の事ばかり考え、自分の事を好きだと言ってくれるこの人の事を、 もっと知っていきたいと思っていた。 こんな気持ちは初めてで戸惑ってしまう。 その戸惑いは、決して嫌なものではなかった・・・ 振り返って、自分からも抱き締めたい衝動にかられたが、 起こしてしまうような気がして、今夜は諦める事にした。 どうしたらいいんだろうか・・・ こんな時・・・ 俺は恋愛なんてしたことがなくて・・・ だからこの世界に来れて・・・ ずっとそんな事を考えて、 背中に感じている熱が、燃えはじめてしまうのではないかと感じていた。 朝起きたら、王が部屋からいなくなっていて、 起きた時に一体どんな顔をすればいいか悩んでいた俺は、正直安心してしまった。 あたりをきょろきょろと見回していると、ユリが丁度部屋に入って来た。 「おはよう・・・」 「おはようございます。もうすぐお昼ですが、何か召し上がりますか?」 「え?もうそんな時間なんだ。昨日(緊張して)寝られなかったからな」 そういえば、とてもお腹がすいている。 俺はゆっくりと起き上がった。ゆっくりでなければ、起き上がれない と言った方が正しいのだが・・・ 飲みやすくしたとはいえ、今日もあの薬にお世話にならなければいけない と思うと背中がゾクリと震えた。 俺の様子を見たユリが「あれ?」という顔をした。 「なに?俺、何かおかしい?」 「いえ・・・おかしいというか・・・以外とお元気そうなので驚きました。 希様は以外とタフでいらっしゃる。」 「え??結構ダルいなぁって思ってたんだけど・・・」 意味が分からなかった。寝ていて、昼近くに起きる俺の、 しかも薬なしでは自由に歩き回れない俺の どこがタフだって言うんだろうか・・・ 「いえ・・・始めは皆、起き上がるのさえも苦痛だと聞いておりましたので」 「???よく分からないけど、取り合えず、あの薬もらってもいい?」 「え?もう必要ないですよ?王と交わられたのですから」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」 とんでもない事を言われた事を理解するのに時間がかかってしまった。 ユリは昨夜、俺がその・・・王と・・・そういう事を・・・したと思っているのだ。 「なな、何言ってるんだ!おおお、俺まだしてないよ!!」 「え・・・」 ユリは心底驚いた顔をしていた。 普段微笑みっぱなしだったユリの顔がこんなに変形するのを 見て、俺はこんな顔も可愛いなとか、見当違いの事を思っていた。 驚いていた顔がきゅっと締まり、ユリがいきなり頭を下げてきたので、俺は何事かと思ってしまった。 「も、申し訳ありません!私の勝手な憶測で失礼な事を申しました!」 「そんな、いいって!そんな頭下げなくても!俺別に怒ってないし!」 それからしばらく、俺にこれでもかと頭を下げ続けるユリに 俺は交換条件を出す事にした。 ご飯を持って来てくれたら許してあげるよ。と・・・ ユリは「すぐにお持ち致します!」と言って、脱兎の如く駆けて行った。 ユリが部屋にいなくなっている間、俺は昨夜の事を考えていた。 後ろから強く抱きしめられて、 彼の触れる全ての場所が熱いと感じていたのだ。 ごつくはないが、鍛えられたようなたくましい腕、 きっと均整のとれた美しい身体、 すらりと伸びた長い脚、 サラリと揺れる、水色の髪・・・・・ そんな人に抱きしめられていると感じたら、もう寝る事など出来なかった。 時折、髪に彼の唇が触れて、もうそれだけでも鼓動は恐ろしいほど 脈打つスピードをあげた。 好きだから、好きになって欲しいと行ってくれた。 愛し合ってしたいと言ってくれた。 それを、嬉しいと感じている自分にも驚いた・・・ 何しろ同じ男に初めてを捧げなければならないのに、 その相手に好きだと言われて喜んでいる。 自分自身、急激な気持ちの変化が信じられなかった。 理由は多分、この世界に来る時に見たあの夢の声が 彼のものであると確信したからだ。 あの声に、全ての事から救われると感じていたのだ。 そして俺は、今もあの人に、全ての事から救われると感じている・・・ そして今、彼に何か辛い事や悲しい事が起きたら、 せめてもの救いに 傍にいてやりたいと思っている。 感傷に浸っていると、ユリが戻ってきた。 「希様・・・何かありました?」 「え?どうして?」 「どうしてでしょう・・・何か、希様の雰囲気が変わられたような・・・」 俺はにこっと微笑んで見せた。 すると、ユリは何も言わず微笑み返し、手際よく昼食を並べ始めた。 ← → novel index top |