もうすぐクリスマス。

日本ではその日、クリスマスの本来の意味など関係なく、
恋人や親しい人達と過ごす日のようになっている。 

だが、そんな日に寂しく過ごす人間だっているのだ。

俺は彼女が居るわけでもないし、一人暮らしだし、別に慣れているからいい。

ただ、金曜夜のこの日、
飲み屋で僕の隣に座っているこの男はそうではないみたいだ。 

「最悪だよ〜!今年は彼女に振られて独りのクリスマスだよ〜」

と喚いている。

どうやらつい最近彼女と別れたそうだ。

しかも理由はこいつの二股である。

どう考えても自業自得だ。同情の余地もない。 

しかし、この同僚がおそろしくモテる事も知っている俺は、この人が
その気になればクリスマスまでひと月もないこの時期に彼女が出来てしまう事も知っている。

「先週コンパで言い寄って来たって女の子とはどうなってるんですか」 

俺が敬語なのはこの人が先輩だからだ。
人間性は決して褒められたものではないが、その容姿に負けず仕事はよく出来る。

「え〜?俺クリスマスは本当に好きな人と過ごしたいんだよね。」 

「クリスマス以外は好きでない子とも過ごせるんですか?」 

「うん」 

…これである。この感覚が良く分からない。
前の彼女ともこの感性の違いが原因で別れたらしい。

「誕生日とか、そういうのは大事じゃないんですか?」 

俺ならクリスマスより誕生日の方が大事だ。

「誕生日ってもう義務じゃん?相手の生まれた日を片方が祝うっていう。
でもクリスマスって目的が二人一緒っていうか…
どっちが一方的に祝われるとかないし。」

「いや、大事でしょう誕生日も。
生まれてくれなきゃ会えもしないじゃないですか。」 

「……」 

「なんですかその顔」 

急に真面目な顔をして人の顔をまじまじと見つめてくる。

顔の作りが良いだけに、男の俺でもこんな風に見られたら緊張する。

「生まれてくれなきゃ会えもしないって…お前ロマンチストだな」 

「そんな事ないと思いますけど…割と普通というか…」 

「お前とクリスマスが過ごせる女は幸せだな。」 

「生憎誰かと過ごす予定はありませんけどね。」 

そう言った俺の発言に先輩が意外そうな顔をした。

「そいや、お前から色恋の話聞いたことなかったな。」 

それは、話せる事が何もないからだ。

中高一貫の男子校で過ごして来た俺は女の人と上手く話せないのだ。

なので、付き合った事がない。

いい雰囲気になれても、結局一緒に居ても楽しくないという理由でダメになる。

「聞かせろよ〜!ロマンチストなお前の歴代彼女の話をさぁ!」 

「お聞かせ出来るような話はありませんから。」 

「言えよ〜!まさか付き合った事がないわけでもあるましいぃ〜」 

「……」 

今度は俺が黙ってしまった。
ただし視線は一切合わせない。 

「……まさか、お前…」 

だから嫌だったんだよ。
この人にこんな話をしたら絶対に馬鹿にされるんだから。

今まで避けて来た話題だったのに、クリスマスが近いせいだ。 

「よし!」 

先輩は拳を握りしめて何かを決意したようだった。

「!?…よしってなんですか?」 

「俺、今年のクリスマスはお前と過ごすわ!」 

「はい??」 

「いいだろ?お前もどうせ暇してるんだし、独り身同士仲良くやろうぜ!」 

意外と馬鹿にされる事はなかったものの、何故こんな話になってしまったのか… 

「…もう、彼女はよろしいので…?」  

「うん!いい!」 

あれだけ彼女と別れて寂しいと嘆いていたのに、
何で男と過ごす事に決めたのだろうか…

 「はぁ…そもそもなんで、二股なんてしたんですか…
二股しなきゃ、彼女と過ごせたんじゃないですか?」 

「言ったろ?クリスマスは本当に好きな人と過ごしたいんだってば」 

本当にこの人の感覚は良く分からない…
好きな人と過ごしたいなら二股なんてしないはずだ。

「なんでそれで二股になるんですか…」 

「本当に好きになれる人を探してたからかなぁ。」 

それってつまり、本当に好きでもないのに付き合ってたっていう事か?

そんなの、二股なんてしてなくたって上手くいくのだろうか… 

「だから俺、クリスマスを彼女と過ごした事ないんだよね…」 

「一度も!?こんなにモテるのに!?」 

予想外過ぎる発言に思わず声のトーンが上がってしまった。 

「モテないとは言わないけど、別にモテたいわけじゃないよ…」 

普段なら何をカッコつけてるのかと思うのだが、
どこか少し寂しそうな顔をしていたので、心の中で悪態をつく事も出来なかった。


しかし、こんな事態を少し喜んでいる自分も居て…

俺はこのどうしようもない先輩の事が好きなのだ。

しかし、女好きの彼とどうこうなろうなどとは思っていない。

今まで一度だって同性を好きになった事がなかったし、
自分でもこの“好き”という感情が、はたして恋愛というカテゴリーに
属するものであるかもはっきりとは分からない。

ただ男女問わず、綺麗な人の笑顔っていうのは物凄く心にクるものがあって…

その笑顔を見ていたいと思うのは、同性に対して抱く感情にしては
随分と甘いもののような気がしているのだ。





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