高校時代、俺は彼の姿に目を奪われた事がある その日から事あるごとに視線を投げかけてみるも、 彼は俺の視線に気づく事はなかった。 接点もなく、共通の話題を見つけられる事もできず、 結局話しかけることすら出来なかった。 自分でも情けないと思うが、怖がらせたりしたくなくて、 どうしても出来なかった・・・ 当初はこんなにも彼が俺の中に残るものだとは思わなかった。 たった一度、思い切り笑った、 あのお日様みたいな笑顔が忘れられなかった。 彼は何を見たら、何を聞いたら、 あんな風に笑ってくれるのだろうか・・・ もう一度あの笑顔が見たい・・・ そして願わくば、自分だけに笑いかけて欲しい・・・ そしてあのお日様のような笑顔で俺を見つめてくれたら・・・ そう思うとどんどん忘れられなくなってしまった。 高校時代に好き勝手した分、 親の望むように進学し、しばらく海外にも留学した。 そのうち忘れられるだろうと思っていたけど、それは違った。 日が経つにつれ、彼への思いは募るばかりで、 けして色あせることはなかった。 この会社に入社したのも、偶然ではない。 実はこの会社は祖父の持ち物であるのだ。 彼が偶然うちの会社を面接に来た時、面接官に祖父もいた。 普段ならば採用担当者に任せているが、 ほんの気まぐれに面接の場に出向いたらしい。 その時出身高校が同じ同い年の男が面接に来たという事を、 電話口で何気なく話したのだ。 話しはじめた時は何の気なしに聞いていたものの、 その特徴が彼と酷似していることに気づき、 祖父に脅すかのような口調で名前を聞き出した。 その名前を聞いた俺は、祖父に詰め寄ったのだ。 不採用にしたら家族の縁を切るつもりでいろと。 そうしてひとつも問題を起こさずに大学を無事卒業するという条件で、 俺は今ここにいるのだ。 今度こそ手にいれる。 数年たっても褪せることなく膨らみ続ける、 憎しみにすら似たこの気持ち。 相手にはなんの非もない。けれど抑えられないのだ。 結局、彼の隣に居る権利を得る事が出来たのはつい最近の事だ。 この小柄な、一見地味なこの男は、俺にとって堪らなく可愛い存在だ。 今考えても昔の臆病な自分をどうにかしてやりたくなる。 彼に触れなかった時間、自分が何年分損をしてきたのかと。 「あの・・・変じゃないかな?」 「何が」 「何がって・・・この距離だよ・・・一応このソファ二人掛けなんだけど」 「二人で座ったら側にいちゃいけないわけ?」 「や、あの、側っていうかこれ・・・・・・上だよね・・・僕」 「やっぱりいつも通り下がいいのか?」 「な!!!なに言って!!?そういう事じゃなくて、 なんで僕が膝の上に座らなくちゃいけないのかって事!」 「お前以外の誰を乗せるっていうんだ?」 「も、もういいです・・・」 「・・・敬語、使ったな?」 「あ・・・!」 そう、もともと同い年で、しかも社会人としては先輩であるにも関わらず 彼は敬語を使ってくる。 それに距離を感じた俺は、敬語を使ったらお仕置きというルールを作っていた。 「だって、そもそも黒崎さんが!」 「黒崎・・・さん?」 そして二人きりでの時は名字で呼ぶのも禁止している。 その上“さん”付けまでしやがった。 「ゆ、裕真・・・」 「もう遅い」 そう言うと俺は膝の上に座らせていた彼を横抱きに抱え直し、 その可愛い唇に自分の唇を重ねた。 後編へ novel index top |