ここに来ているという事は男の人が恋愛対象であってもおかしくはないと 分かってはいるけど、それでも何故こんな自分に?? 「ぼ、僕の顔、気持ち悪くないんですか?」 「こんなに可愛い顔をしているのに。どうしてそう思うんだい? さっき君に声をかけられていた人物に君の顔の事をそう言われたから?」 「どうして・・・」 どうして彼がその人物だと分かってしまったのだろう? 「“相変わらず”って言っていただろう?以前からの知り合いでなければ そんな言葉は出てこないだろうから。それに、今回は気持ち悪いではなく 男か女かわからないと言われていたしね。 以前からの知り合いだったとしても、男か女かわからないと言われたくらいでは 君は涙するまではいかなかったのではないかと思ったんだ。 以前のトラウマとさっきの言葉が重なって、余計に嫌な気分になったんじゃないのかな?」 「・・・はい」 その通りだったので、素直に頷いた。 古宮さんは僕の数少ない言葉をくみ取ってちゃんと理解してくれている。 「彼も言葉を間違えたんじゃないかと思うんだが。男性か女性か判断がつかない程、 君が現実離れした優れた容姿をしているから、つい気持ち悪いなんて・・・。 まあ、当時は中学生や高校生でもないからね。 そこら辺は彼の内面が幼すぎたのだと思うが・・・」 古宮さんはそう言うけど、そんな事は絶対にないと思う。 でも、彼が幼かったのは、そうかもしれない。 当時はその屈託のない明るい性格とまだ幼い笑顔に惹かれていたから。 「私としては、彼が口の上手い人間でなかった事に感謝しているけどね。」 「どうして、・・・ですか」 「だって、もし君が彼とどうにかなっていたら、 こんなにも可愛い君と知りあう事はなかったかもしれないから。」 古宮さんは何度も何度もこんな僕の事を可愛いと言ってくれる。 でも、この5年間ずっと自分の事を気持ち悪い顔だと思って生きて来た僕は その言葉を素直に信じる事が出来なかった。 そして、ある考えに至る。 「め、眼鏡を外したらもっと酷くなるかも知れないんですよ?」 「え?」 古宮さんは僕の突拍子もない発言に驚いているようだったが、 眼鏡をしているから、もしかしたら眼鏡をかけている方がまだ見られる顔なのかも 知れない・・・そう思ったのだ。 そして急いで眼鏡を外す。 「っ!?」 古宮さんは、目を見開いて僕の顔を見つめた。 「や、やっぱり、眼鏡を外したら見れた顔では・・・」 「いや、その逆だよ! 眼鏡を取った君があまりに綺麗な顔立ちをしていたので驚いたんだ。」 「へ・・・」 「だから言ったじゃないか。春ちゃんは可愛いんだってば。 俺がどんなに言っても信じないんだもんなー。 あ、警察には事情ちゃんと話しといたから。」 そう言いながら、マスターが店に戻って来た。 そしてカウンターの中に入りながら、話しを続けた。 「んで春ちゃんの話続けるけどさ、 最初はこんなに可愛いのに、なんで背中丸めて歩いてるんだろうと思って声をかけたんだ。 話を聞くと春ちゃんホントにいい子だから、幸せになって欲しかったけど、 半端な人を薦める気にもなれなくてさ、 その点、古宮さんなら安心して任せられると思ったんだよね。 だから俺、古宮さんが早く海外から帰って来ないかなーなんて思ってたんだ。 で、先週やっと古宮さんが来てくれたから、いつもは空けておくようにしてる 春ちゃんの隣に座らせちゃった!」 そう言って、マスターはピースサインを作る。 この一年、僕の隣に誰も座った事がなかったのはマスターが僕に気を使って してくれた事だったんだ・・・ それに、そんな風に気にしててくれたなんて全然知らなかった。 「マスター・・・その・・・気を遣ってくれてたみたいで・・・ありがとう」 「ううん!お礼はいいからさ、春ちゃん、 もうこの際、古宮さんに幸せにしてもらっちゃいなよ!」 「そ、んな・・・急には・・・」 「急にじゃなかったらいいのかな?」 古宮さんが横からそんな事を言って来るので僕は慌ててしまった。 「え!あ・・・いえ・・・その・・・」 「まず私の事を知ってもらう所からでいんだ。 こうしてこの店で、私と肩を並べて一緒に時を過ごしてほしい。 その内どうしても無理だと思ったら、それはそれでいいんだ。 無理強いするつもりはないから。 というより、無理強いなんかして嫌われたら立ち直れないと思うんだ。」 そう言って笑う古宮さんは、普段の凛々しい顔が崩れて優しい顔つきになる。 こんな顔でこんな事を言われたら、無下になんてできない。 「お、お友達からでも・・・良いでしょうか?」 「もちろん!嬉しいよ。」 こんな笑顔をずっと隣で見られたら、どんなに幸せだろう。 それに、何だか古宮さんに可愛いって言われる度、ドキドキするんだ。 「はーい!俺からひとつ提案があります!」 「?」 「今から皆で花見に行こうよ!」 マスターがそう言うと、カウンターの奥から氷を勢い良く グラスに落とす音が聞こえた。 「晶さん・・・店はどうするんです。 もし行かれるなら。穴埋めは、きっっっちりしてもらいますから・・・」 あ、晶さんていうのはマスターの名前で、 他の店のお客さんには秘密なんだけど、マスターとバーテンダーの集さんは、 お付き合いをしているらしい。 「・・・・・・・・・ごめん、やっぱ二人で行ってきて・・・」 そう言ってマスターは僕たちを店の外まで送りだしてくれた。 古宮さんは僕を気遣って寒くないかとか、お腹が空かないかとか色々聞いて来て くれたけど、僕はそんな事が気にならないくらい緊張していた。 他愛もない会話をしながら桜のある公園に着き、並んでベンチに座る。 桜は満開の時期を過ぎていたけど、とても綺麗だった。 しばらく桜を見つめていると僕の手に、彼の手が重ねられた。 「友達からって言われたのに君に触れるのは、ルール違反かな?」 「あ・・・え・・・あの、これくらいなら、大丈夫です。」 こんな風に、誰かと並んで桜を見上げる事の出来る日が来るなんて思っていなかった。 春の暖かい風を、気持ちがいいなんて感じている自分に驚きながら、 古宮さんが可愛いと言ってくれる言葉を信じて、 少しだけ前を向いてみてもいいのかもしれないと思った。 -------------------------------------------------------------------- ということでキリ番246810でのリクエストを書かせて頂きました。 桜の頃に出会い、最後はハッピーエンドというリクエストだったのですが こんな感じになってしまいました;; 今回は地味受けでなく、実際はとてつもなく美人なのにトラウマによって 自らの容姿に自信が持てない受けでした。 そのうちこの話もイメージイラストを描きたいです。 ← novel index top |