1 あ、あんなの、まるでプロポーズみたいじゃないか!! 『俺の世界の愛し合ってる者同士の誓いの言葉があるんだけどね、 宗教とかも関係あるから、そんなに詳しくはないんだけど、 “病めるときも健やかなるときも、死が二人を別つまで・・・” っていうのがあるんだ。俺達はさ、“死が二人を別つとも”だね。 俺は空間も時間も飛び越えちゃったからさ、きっと出来るよ。』 夜中に目が覚めた俺は、 ベッドの中で昨日自分が言った事を思い出して赤くなってしまった。 そして色々考えているうちに、一つの考えに至ってしまった。 シャナは微笑んでくれたけど、そもそもシャナはこの国の王様だ。 ずっと一緒にいようって言ってくれたけど 俺みたいな異世界から来た人間と、しかも後継ぎも残せないような男と結婚なんて、 普通に考えたら出来るわけがなのだ。 そんな風に考えていたら、急に自分の言った事がとても愚かなもののような 気がしてきた。 沈んだ気持ちをどうにか切り替えようと、俺は厨房に水をもらいに行こうと ベッドから出ようとした。 「・・・ぅん」 床に片足を付いた所で、ベッドが揺れてシャナから僅かな声が漏れたが 起こすまでには至らなかったようだった。 ほっと息をつき俺は部屋を後にした。 厨房まで行くと、夜中だというのに明りが付いていた。 「希様?」 そこに居たのはハウエルさんだった。 いつも見る格好より随分ラフな姿をしていたので一瞬誰だか分からなかった。 「あれ、ハウエルさん、どうしたんですか?こんな夜中に。」 「その言葉、そのままお返し致しますよ。」 それもそうだな・・・と思い、自分の目的を告げる。 「俺は、のどが渇いてしまって、お水を貰いに。」 「そうでしたか。私も水をとりに来たんですよ。ユリが少し熱っぽいので。」 「熱??大丈夫なんですか?」 「ええ、医者にもすでに見せましたし。病気というわけではなかったので。」 病気じゃないなら良かった・・・ 医者にも見せているならきっと大した事ではないのだろう。 「ユリに、お大事にと伝えてください。」 「はい。では、私はこれで。」 ハウエルさんは水差しと少量の果物をのせたトレイを持って厨房を出て行く。 ハウエルさん自らユリの世話をするなんて、ユリが大事なんだろうな。 あの二人はどうなんだろうか・・・ 一生二人で居る約束をしているのだろうか? 結婚なんて、考えているんだろうか?そもそも、同性間の結婚は認められているんだろうか。 気分転換したいはずなのに、どうにも今の俺の思考はそっちに 向かって行ってしまうようだった。 水を一口飲み、ため息をひとつはいて部屋へと戻ろうとした。 「希?」 部屋を出ようとした所で、こちらに向かっているシャナの姿が見えた。 「シャナ・・・どうしたの?」 「起きたらお前が居ないなんて事は、今までなかったからな。 心配になって、探しに来たんだ。」 「ごめん、喉が渇いたから、水を飲みに来てたんだ。」 「そうか、これからは私が寝ている時でも、声をかけてくれ。何かあったら心配だ。」 子供じゃないのだから、用が済めば部屋に戻るのに・・・とは思ったが、 シャナの顔が本当に心配そうだったので、それは口に出さなかった。 「うん、ごめん」 「さぁ、部屋に戻ろうか。朝はまだ遠いよ。」 部屋に戻って再びベッドに横になると、すかさず俺の身体に腕が伸びて来て、 抱きしめられる。 「また知らないうちに離れられると困るからな。 お前の体温が近くにないと、私は寝られなくなってしまったようだ。」 「そんな事言って・・・」 「本当だよ。現にお前が離れたから起きてしまっただろう?」 「そうだね・・・俺も、シャナの側にずっといたいよ」 これは本心だ。 例え俺が言ったような永遠の未来を誓えなくても、許される限り、俺はシャナと一緒に居たい。 翌日。 「え??ちょっ・・・ちょっと待って・・・え?だって・・・」 昼食の席にて、俺は今、混乱の中にいた。 「だって昨日、病気じゃなかったって・・・」 ハウエルさんが言っていたのだ。大した事ではないような口ぶりで・・・ 「そんな・・・ユリが・・・でも、どうして」 「落ち着け、希」 シャナが俺をなだめようと背中をさすって来る。 「だって!こんなあり得ない事が起こってるのに、 なんでシャナ達はそんなに平気そうなの!?」 「ありえない?何故だ?」 「へ・・・?なぜって・・・」 俺には普通でない事が、この世界では普通に起こりえるっていうのか? 「愛しあっている二人にとっては、素晴らしい事だろう?」 「そ、それはそうだけど、でも、ユリも男だし・・・・・・に、・・・に、“妊娠”なんて!!」 先ほど聞かされたのは、ユリが妊娠しているという事実だった。 それはまさしく昨日夜中に俺が悩んでいたことである。 男では妊娠出来ないから子供は残せないって。 「まぁ、普通にしていたら出来ないがな。中には適性のない者も居る。 でも正しく処方された薬を使用すれば、出来ない事はない。 お前の世界ではそうではないのか??」 俺は思い切り頭を横に振った。 「お、俺の世界には、男性が妊娠出来る薬なんてありません!」 予想も出来なかった事を聞いて、俺の頭の中が混乱していく。 「そうか・・・それでは驚くのも無理はないかもしれないな・・・」 驚くに決まっている!まさかそんな、男性が子供を産むなんて考えてみた事もなかったし。 でも・・・ 子供が・・・できるんだ・・・異世界から来た俺でも、出来るんだろうか。 まだ信じられない気持でいっぱいだけど、ユリに、相談してみようかな・・・ そう思った俺は、ハウエルさんに了解を得る事にした。 ユリは今自室にいて聞く相手がいないからだ。 「ハウエルさん。ユリに会いに言ってもいいですか?」 「もちろんです。ユリも喜びますよ。」 食べ終わったら早速会いに行こう。そしてまず、おめでとうって言おう。 そう思った俺は、急いで残りの食事を片付けた。 ユリの部屋の前に来て、まずノックをする。 「ユリ、俺だけど、入ってもいいかな?」 「ええ、もちろんです。」 ユリはにこやかに出迎えてくれた。 「ハウエルさんから聞いてさ、妊娠おめでとう!!俺、この世界では男が妊娠できるって 聞いて、びっくりしちゃって! でも、ユリの子供なら可愛いよ、絶対!」 「ありがとうございます。希様の世界では、男性は子供を授かれないのですか?」 「うん、そうなんだ・・・それに・・・」 少し俯いた俺を見て、ユリは何かを察したようだった。 「私でよろしければ、お話になってください。 希様のお力になれる事はいつでも私の喜びですから。」 「ご、ごめん、俺さ・・・」 それから俺は、王であるシャナとずっと一緒に居られないのではないかという事、 不安に思っている事を打ち明けた。 「・・・希様・・・」 ユリが心配そうな声で俺の肩にそっと触れたその時だった。 勢い良く扉が開いた。 「!!?」 シャナとハウエルさんが立っていた。 ハウエルさんはいつもと変わらない様子だったけれど、 シャナはどうやら怒っているようだった。 「シャ、ナ・・・?」 「お前は、そうやっていつもユリの所に逃げ込むんだな・・・」 そう言って背中を向けて去っていってしまった。 「シャナ・・・待ってっ!」 必死に追いかけるが、脚の長さが違うからか、なかなか追いつけない。 「お願いシャナ!待って!」 俺の言葉にようやくスピードを緩めたシャナの服を掴む事が出来た。 服を掴んでみたものの、どう話して良いか分からなくて無言になってしまう。 シャナを困らせたくなかったんだ。 もしシャナのいう“一緒にいる”が、自分の望む“一緒にいる”という事でなかったら 俺はきっと立ち直れなくなるような気がするから。 「お前の側にいるのは王としての私だけか?」 その無言の時間を断ち切るようにシャナが口を開く。 「え?」 背中を向けたまま、シャナがゆっくりと話し出す。 → novel index top |