自分の部屋にいて何故こんなに緊張しているのだろうか・・・ リビングにあるソファに向かい合わせで腰掛けて居るのだが、 部屋に入ったきり彼は押し黙ってしまった。 「な、何か飲みますか?あ、って言っても、ぼ、僕はあまり お酒は飲まないので、コーヒーか紅茶くらいしか出せないんですが・・・」 「・・・どっちが好きなんだ」 いるかいらないかの返事を待っていた僕は、予想外の質問に 一瞬固まってしまったが、小さく「紅茶」と答えると 彼の表情が少しだけ和らいだように見えた。 「じゃあ、紅茶。」 「は、はい!!」 勢い良く返事をして、キッチンに向かう。 湯沸かし器のようなものは置いていないので、やかんに水を入れて火にかける。 するとまた部屋に沈黙が流れた。 コンロの前に立ってお湯が沸くのを待っていると、 突然彼が立ち上がり僕のいるキッチンへ歩いてきた。 「あ、あの、す、座ってて下さい。すぐ持って行きますから。」 「あの先輩と、どういった関係なんだ?何見て笑ってたんだよ。」 僕の言葉に被せるようにして、彼が話しかけてくる。 どういった関係かと聞かれても、先輩後輩の関係で、 良くしてもらってはいるが、ただそれだけだ。 そして何かを見て笑っていたという事は、きっと猫の写真だろう。 「あ、あの・・・先輩はただの先輩で・・・ 見てたのは先輩の家の猫の写真ですけど・・・」 「・・・そうか」 「猫は、昔から好きなのか?」 どうしてそんな事を聞いてくるのだろうか? 疑問に思っても“なぜ?”と聞き返す事が出来ず、 素直に答える事しか出来なかった。 「が、学生時代、時々教室の窓から猫の親子が来るのが見えて、 それが凄く微笑ましくてそれ以来・・・」 「なるほど。」 妙に納得した顔をしたかと思った次の瞬間、腕を掴まれて、 彼の胸に引き寄せられた。 「え!?あ、あの・・・ちょ・・・」 彼に抱きしめられるのは今日で2度目だ。いや、今日でというか、 親以外のだれにもこんな風に抱きしめられた事はない。 「どんな風に言っても、結果は一緒だからな」 「な、何の事・・・」 「好きだ。」 ・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・好き? 今彼は僕に向かって“好き”と言ったのか? そんな馬鹿な。 どうして彼が僕なんかにそんな風に言うのかが分からない。 「学生の頃からずっと、お前が微笑むたびに胸が苦しくなった。 ずっとその笑顔を俺に向けさせたいと思ってきた。」 「だ、だって、黒崎さんとは一度も、口をきいた事も・・・」 「あの時の俺は臆病者だったんだ。 お前は気がつかなかったかもしれないけど・・・俺はずっとお前を見てた。 見る事しか出来なかったが、お前が笑うのを見ると、ここがあったかくなるんだよ。 まるで、ひなたにいるような・・・」 ここと言って彼は僕の手を彼の胸に導く。 ドクドクと言う心臓の音が伝わってくる。 彼も緊張しているのか、それは僕でも分かるほど早く脈打っている。 「でもっ・・・僕なんか・・・」 「7年間も想ってきたんだ。 お前に話しかけなかった事、ずっと後悔してきた。」 あの7年分の意味はこの事だったのか? そんなにも、7年間も、想ってくれていた? 想い出を振り返る度に、鮮明に思い出される彼の姿。 それはいつも彼を目で追っていたからに他ならない。 畏怖、憧れ、懐かしさ、今までなんと呼べばいいのか分からなかった この感情全てにひとつの名前をつけるとしたら・・・ 「・・・恋?」 彼の思いがけない告白に同様してあれこれ考えていたら、 思わず声に出てしまった。 「ん?」 「あ、あの、学生時代から、僕は黒崎さんに憧れていました だからって、何がどうなるとか、全く考えた事とかなくて・・・」 そこまで言うと彼が僕を抱きしめる腕に一層力を込めた。 「考えなくていい。俺が教えてやるから。 それこそ7年分溜まってるから。しつこくなるけど覚悟しろよ。」 「へ?・・・あ、あの “7年分・・・覚悟しとけ・・・”の真意って・・・」 「ああ、それは・・・」 その言葉の続きは僕の耳元で甘く、そして恐ろしく囁かれた。 ---------------------------------------------------------------------------- 黒崎、ラストは7年もウジウジしてた男とは思えないですね(笑) このお話、狼と観音様とリンクしております。 これからも気が向いたら○○と○○様シリーズと称して短編を書いていきたいです。 地味受けシリーズです。 そして、「狼と観音様/蛇とお日様」キャラをがっつり絡めた話も書いてみたいな。 お付き合い頂きまして、ありがとうございました。 novel index top |