僕の名前は館川雅樹(たてかわまさき)
何か特技があるわけではないけど、あえて言うなら人より少し成績がいい。
一応毎回テストの順位が10位以内に入ってはいるが、別に、成績が良くないといけ
ない家庭なわけではない。
勉強は嫌いじゃないから、自然とこうゆう順位をとれているんだと思う。
それだけ。
逆に言えばそれ以外には何もない平凡な高校生だ。
今回のテストだって、普通に勉強して普通に受けるつもりだった。
でも、今回ばかりはいつもと事情が違う。
僕は必死だったんだ。誰より良い点をとらなきゃいけなかったんだ。
今目の前に張り出されている順位表を見て僕はこの世の終わりを感じている。
あんなに必死に勉強したのに、2位!
今までで最高得点を得たにも関わらず、2位!
1位には僕がこんなに必死になった元凶平伊竜矢(ひらいたつや)の名前が…
そしてありえないオール満点の数字。
今まで50位以内にすら入って来なかった人物の登場にまわりにいる生徒達もどよ
めいている。
「うそだろー!あの、平伊だよな?」
「それ以外いねぇだろ。顔がよくて頭まで良くなられたら誰が太刀打ちできるん
だよ!」
そう、平伊は顔が良い。
そんな平伊に僕は今回のテストに負けたら何でも言う事を聞く事を約束させられ
ていたのだ。
何故断れなかったのかって?自信があったのかって?
違う!
単純に、
純粋に、
怖かったんだ!
制服を着ていなければ絶対に高校生に見えない。
いわゆるチャラチャラした軽い感じの不良ならウチの学校にだって何人かはいる
し、ここまでビクついたりしない。
でも彼は違う。
圧倒的な存在感、そして威圧感、背も高いうえに声が低い。
そしてさっきも言ったが顔が良い。まるで彫刻のような。孤高の狼だ。
そんな彼にテスト週間前に呼び出しを受け、こう言われたのだ
「今度のテスト、俺がお前より良い順位だったら言う事を一つ聞け」って。
何でって聞いたって答えてくれなかった。
「お前に勝てた時に話す」って言って…
何をするかも聞かされずに恐怖感に押しつぶされそうになりながら勉強したのに…
この世に神様なんていないんだな。
「館川!!」
後ろから大きな声で呼び掛けられ、僕は驚いて勢い良く振り返った。
「何度も呼んでんのにどうしたんだよ。順位表見てぼーっとしちゃって」
声の主は同じクラスの友人の相田朋也(あいだともや)だった。
「あ、いや…なんでも」
「うわ、めっずらしー奴がいきなりトップに立ってんだな!てゆうかちゃんとテ
スト受けてる事自体珍しいような…」
ほんとそうだよな。そこまでして僕にさせたい事って一体なんだろ。
大体の事が出来ちゃうんだから人にやらせなくたっていいじゃないか。
明るい陽の下を歩けるのも今日で最後か?これからは日陰を歩く人生が待っているんだろうか。
そんな暗い事を考えていた今度は僕の前方に威圧感を放ちながら歩いてくる人影が…
「館川、約束。忘れててねぇだろうな?」
その声のトーンの低さに無言でコクコクと何度も頷く。
「よし、ここじゃ何だ。付いて来いよ。」
そう言われて着いた先はお決まりのパターンの屋上だった。
相田も周りの人たちも憐れむ視線は向けるものの、誰も止めてくれる人はいない。
相田の薄情者。
屋上に着いてしばらくたっても、平伊は一言も言葉を発しようとしない。
さすがに耐えかねた僕は自らの口を開いた。
「あ・・・の・・・」
「あ、いや、すまねえな。これでも一応緊張してんだよ。ガラじゃねぇけどな。」
緊張?一体なぜ?緊張してるのは僕の方だ。
こんな、同級生だというのに親と子程体格が違う相手と二人きりなんだから。
「こんな事誰かに言うの初めてだからな。・・・俺と、付き合ってくれ。」
今、なんて言った?
つ き あ っ て く れ ?
ここで何処に?と聞くのが正解だろうか?とりあえず性別確認だ。
「僕、男、ですけど。」
「知ってる。」
ああ、そうですか…
「僕、普通の高校生ですけど。」
「知ってる。」
まあ、そうですよね…
「可愛くも、なんともないつまらない人間ですけど。」
「そんなこたねぇよ。
お前はさ、観音様みたいだよ。控え目に笑う所とかさ、伏せ目がちな目とかさ。
席も窓際だろ?たまに逆光で後光が差してるように見えるんだぜ。」
大笑い出来ないのは性格で、伏せ目がちなのは自分に自信がないからで、
後光が差してるように見えるのはそれこそ窓際の席だからで、自然のなせる技なんだけど。
「なんか俺、必死だな。」
そう言って、少し眉を下げて苦笑した顔は、何だか少し幼く見えた。
狼でもこんな顔するんだな。
「なんだよ、反則だろ。控え目に笑うのが良いって言ってんのに、そんな顔しやがって。」
「え?僕、笑ってた?」
自分じゃ全然分からないけど、笑っていたのだろうか?
なんだか、怖い怖いと思っていたけど実際はそんな事はなくて、
思ったより普通に話せてる自分がいる。
「答えは、聞かなくてもいいな。賭けに勝ったのは俺だし。
俺の言う事を一つ聞く約束だしな。」
「う・・・でも・・・」
それはそうなんだけど、でもやっぱり男同士って普通じゃないよな。
脅されたり殴られたりは想像していたけど、これは想定外だったから、
なんて言ったらいいか分からない。
「でもじゃねぇ。館川、俺と付き合え。いいな?」
突然凄まれて、俺はもう首を縦に振るしかなかった。
やっぱり、怖いっ!!
こうして俺は、平伊と付き合う事になった。
俺の事を観音様なんて言っていた狼だけど、観音様と狼って凄い組み合わせだよな。
これからの俺の学生生活は一体どうなってしまうんだろうか…。
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